約 773,936 件
https://w.atwiki.jp/capmon/pages/116.html
No.038・・・カッパマン 種族:はちゅう タイプ:クール カッパによくにたモンスター。 お腹がすくと目が回ってしまうので注意。 走るのが得意でサッカー選手になるのがゆめ。 特技:シンカンセン スピードアップで遠くまで移動する。 合体作成例 ハシリトカゲ+B・E・Wドラゴン No.037・・・ブルーヘッド No.039・・・ソーン 251-141-103-8 -- 名無しさん (2013-10-14 21 49 49) ゾイドーM(合体でつくった)バクラのスウィーターを乗せて作れました -- 名無し (2015-08-05 21 49 23) レア卵のゾッドにキャベツ与えて10回つつく→ステータスはみんなオレンジでなりました -- 名無しさん (2015-11-20 17 03 15) ばくらのカメ+デモニスでつくれます -- 名無しさん (2015-11-20 17 04 42) ダイナソーウィングから作れた。250.141.103.8 -- 名無しさん (2018-10-07 16 28 50) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/gods/pages/57862.html
カッパタヌキ(カッパ狸) 日本の民話に登場する妖怪。 バケダヌキ(化け狸)の一。 愛媛県に伝わる。
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/273.html
涼宮ハルヒのリフォーム その2から 「すごい鍵束だな」 と親父さんは俺が持っているものを見て言った。 「マスター・キーってものがないんだそうです」 「扉ひとつに、ひとつずつか。よく、玄関の鍵がそれだとわかるな」 「ええ、これひとつだけ飾りが付いていて。残りの扉は、面倒なんで、昨日来た時に鍵は開けておきました」 「ふーん」 洋館内部の実測と点検は、てきぱきと進められた。 部屋の内側の形と面積を知るのが主な目的だったが、親父さんが指示を出し、巻き尺の端を持って俺を走らせる。軽口も冗談も休まないが、親父さんは判断が速くて正確で、たとえ間違っても「ああ、やっちまった」と認めるのも修正するのも躊躇がない。おかげで作業は驚くほど速く、それに気持ちよく進んだ。 親父さんは、俺が走る間にも、壁を叩いたり、床を蹴ったりしつつ、建物本体の具合をチェックしているみたいだった。 「あの、メモらなくていいですか?」 「さっきも言ったが物覚えだけはいいんだ。トラウマと自分が言ったこと以外は忘れたことがない。なんなら円周率を気が遠くなるまで言おうか?」 「いえ、いいです」 「何か探してるのか、って? 『壁に埋められた死体』とか『地下道に続く抜け穴』がないかと思ってな。定番だろ?」 間違いない、この人は、あのハルヒの親だ。 「季節限定にして欲しいです」 あと場所も避暑地限定にして欲しい。 「ま、探してる間は見つからないのもお決まりだ」 忘れた頃にも発見されないで欲しい。 「ああ、もうちょいで終わりそうだ」 親父さんはケータイで家に電話を入れている。 「お化け? キョン、おまえ、なんか感じるか?」 「いや、おれはいたって霊感が弱いというか、にぶいらしくて」 「だそうだ。まあ、おれも嫌な感じはしないがな。問題は別のとこに、……って、やれやれ、切りやがった。キョン、おまえさんは今夜もう一度、来るはめになるみたいだ」 「ハルヒですか?」 「幽霊というものは、夜に出るんだそうだ。へんなとこ、頭の固いやつだ」 親父さんは大きなあくびを一つ。 「というわけだ。二人仲良くチャレンジしてくれ」 おれたちは、不動産屋に立ち寄り、夜にもう一度来たい旨を伝えて、洋館の鍵はそのまま借りておくことになった。 涼宮家にもどると、親父さんは早速パソコンに向かい、登記簿についていた輪郭図をスキャナで読み取り、ちょいちょいと図形を組み合わせて、あっという間に、平面図のようなものを作りあげた。それから、数字を入力して細かいところをいくつか修正した。矢印で寸法をいくつか入れた後、こちらを振り向き、 「あと、頼めるか?」 と俺に言ってきた。 「悪いが働きすぎた。親父も眠る牛みつ時だ」 実際は昼飯時といった時間だったが、出かける前に36時間寝てないと言ってたしな。 「もうすぐ昼飯ができたとかなんとか言ってくるだろ。それまで寸法が入ってた方が分かりやすそうなとところにいれておいてくれ。あと適当に各部屋に名前を付けといたほうが話しやすいだろう。そういうのを頼む。俺は寝る」 と親父さんはどこかの病室で見たことが在るような寝袋をもちだしていきなり床に横になってしまった。 「ごはんできたわよ」 マウスをいじっていると、気配を消して近づいてきたハルヒが背中をよじ上ってきた。 「こら、重い。線が曲がるだろうが!」 「CADで書いてるのに何で曲がるのよ。それにあたしは重くないわよ」 「体重の話じゃない。体勢の問題だ」 そして姿勢の問題だ。「当たって」んだよ。 「なかなかうまく描けてるじゃない」 ハルヒは構わず俺の背中に体重をかけ、乗りだすようにしてパソコンの画面を見る。 「……ほとんど親父さんがやったんだ。俺は細部を仕上げてるだけだ」 「ふーん。とりあえずセーブして中断してちょうだい。母さん、待ってるから」 「親父さんはどうすんだ?」 「寝たら絶対起きないわ。丸一日は眠りつづけるわね」 ハルヒとダイニングに降りて、すでに定位置になり始めた席につく。ハルヒが左、おれが右。 「お父さん、寝ちゃった?」 「うん。当分起きないわよ」」 「お昼作りすぎたかしら? まあ、あなたたちがいるから大丈夫ね」 「ちょっと、母さん、どういう意味?」 どういう意味ですか? 「食べだしたら、自ずと分かると思うのだけど。簡単なものばかりでごめんね。さあ、召し上がれ」 ハルヒの母さんが言う「簡単なもの」メニューであるが、分かった範囲で言うと、 紫芋をつぶしてつくったベジバーグ(ベジタリアン用ハンバーグ?)のポン酢がけ 鶏もも肉とゴーヤとナスビの味噌炒め 小アジの南蛮漬け 3種類のきのこ入りサラダに、薄切りカボチャを揚げたものをトッピング+和風ドレッシング きざみネギ入りだし巻き卵 ゴボウとレンコンのキンピラ わかめとじゃがいもとそうめん節の味噌汁 ゴマをかけた玄米ご飯 浅漬けの漬物3種類 ほうじ茶 デザートに豆腐プリンの黒蜜かけ 2,3品抜けてる気がするが、だいたいこんな感じのが4人分。眠っていて抜けた親父さんの分も、きれいに3人の胃袋に収まった。 ハルヒも食べる方だが、ハルヒの母さんという人は、それに輪をかけて食べる。それでいて、娘とほとんど変わらない体型なのである(ハルヒにいわせると、母さんの方が痩せているそうだ)。 「エネルギー効率が悪い体ね。頑張って食べないと、痩せていくし、そのうち起きあがれなくなるの」 ハルヒがそれに対して何か言いかけたが、別の声のせいで中断された。 「母さん、腹減った。お、みんな、食べた後か?」 「呼びにいったのに起きないあんたが悪いんでしょ」とハルヒはにべもない。 と、そこにフットボール大のグリーンの物体が俺の視界を横切った。 キャベツだ。 親父さんは一瞥すらせず、後ろ手にそれをキャッチする。 「母さん、何枚だ?」 「そうね、4、5枚もあれば十分かしら」 親父さんはキャベツの葉っぱをちぎりながら、キッチンの方へゆっくり歩いていく。 「ハルヒ! キョン君!」 思わず身構える。飛んできたのは缶詰、ツナ缶だ。缶切りの要らない奴。 俺は顔ギリギリにキャッチ。ハルヒは太ももでトラップした上にリフティングと無駄な足技を披露する。だから、スカートでそういうことは、やめろって。 ハルヒは諦めて、ツナ缶を手に取り、プルを引いて開け、中身をハルヒの母さんが抱えたボールに移す。無論、俺もそれにならう。 親父さんはその間にも、軽快な音をさせて、キャベツを刻んでいる。すぐにコールスロー・サラダができそうな、見事なみじん切りだ。それも、ハルヒ母のボールへ。 ハルヒの母さんは、何か呪文のようなものを唱えながら、冷蔵庫から自家製マヨネーズを取り出し、呪文に導かれるように、キッチンの吐き出し窓から庭へ出たハルヒが、ハーブと思われる葉っぱを数枚ちぎって戻ってくる。親父さんは平べったい円形のパンを水平に切り、待機している。 魔法のボールの中でかき混ぜられたそれらは、親父さんが切ったパンの切り口にたっぷりと盛りつけられ、親父さんは切り分かれたパンを再び一体にし、それを上からみて十文字に切る。 以上、ツナキャベツ・サンドのできあがり、である。 親父さんは早速テーブルに着き、できたてサンドイッチに噛みつき、ほおばっている。 「うまい」 ハルヒの母さんは、親父さんの向かいに座り、ニコニコと親父さんが食べるのを楽しげに眺めてる。 「こっち」 ハルヒが袖をひっぱり、おれたちは庭に出た。 「ああなると、単なるバカップルだから」 なるほど、気をきかせたわけか。よくできた娘だな。その気遣いの千分の一でいい、俺にも向けてくれ。 「アホ。あんたほど手もかかれば気もつかうバカは居ないわよ」 と、そっぽを向いて、ずいっと何かを突き出してくる。さっきのパンだ。四分の一。 「労働の対価は貰わないとね」 「ツナ缶開けたのと、プラスおまえはハーブを収穫しただけだろ」 「何よ、食べないの?」 「もちろん食べる」あんなに簡単にできて、何故だかうまそうだからだ。「だが一つしかないぞ」 「食いしん坊。分かち合いって気持ちがないのかしら」 とハルヒは一口かじった、オヤジサンド(命名おれ)を突き出す。 「却下」 命名が気に入らないらしい。駄洒落っぽいしオヤジっぽいしな。 「うまい」 手をかけた料理だけでなく、クイック・クッキングまでこなすのか、あの夫婦。 「驚きすぎよ。アメリカのデリカテッセンで、普通に売ってるわよ」 「アメリカ人が作ったちゃ上出来だ」 「素材はおいしいのよ、あそこは。余計なことしなきゃね」 「なるほど」 「あんた、連続で二口食べた」 「あ、すまん。つい」 「口の中のを、よこしなさい」 「おまえは鳥の雛か」 「あ、拒否した。飲み込んだ」 「あー、わかったから、口あけろ」 「あーん」 「母さん、あいつら庭で何やってんだろう?」 「うーん。餌付けかしら?」 「毛づくろいを始めたら教えてくれ。止めに入る」 その4へつづく
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3348.html
「あなたもいっその事、この状況を楽しんでみては?」 断る。俺は気が狂おうとも冷静でいるべきキャラなんだよ。 「キョン君~!これどうやって止めるんですか~?ひえぇ~~~」 ハンドルを離さないと止まりませんよ。それがコーヒーカップというものでしょう。 「こんな古い・・・いえ、珍しいアトラクションは初めて体験するもので・・・とめてぇ~~~」 む・・・?あいつら・・・ハルヒに長門、何回目だよそのジェットコースター。 「キョン!このジェットコースターは素晴らしいわ。なんたって何度乗っても飽きないんだもの!」 あぁ、どうしてこうも俺からは日常がはるか彼方へ遠ざかっていくのか・・・やれやれ。 ここがどこかって?見りゃ分かる、遊園地だ。 遊園地でハメを外すのがそんなに恥ずかしいかって?そんな訳あるはずがないだろう。 俺だって、ここが普通の遊園地ならそりゃある程度箍(たが)を外して遊びまくるさ。 しかし残念なことにここの遊園地は“普通”などではない。 この遊園地は──ハルヒの夢の世界なのだ。 古泉が言うにはここ最近のハルヒの退屈度の進行が原因なんだとさ。 その退屈をどうにかするってのが課題じゃなかったのか。と聞けば 「えぇ、仰るとおりです。 ただ今まで退屈による不満で発生する閉鎖空間で判断してたんですが・・・ここ最近は全く発生していなかったんですよ。 言い訳に聞こえるかもしれませんが・・・その不満をこういった形で発散させるということは、何か涼宮さんに変化が起こりつつあるのかもしれません。」 不満が原因でたまたま見てしまったこの面白おかしい(俺には面白くもなんともないが)夢を現実にすりかえようとしている最中なのだと。 哀れ世界。俺が世界なら確実にビッグバン起こして怒りをぶつけてるところだ。 もちろんそのまま放っておくわけにはいかない。 が。もうすでに現実世界とほぼ融合しているために、ハルヒに向かって「これは夢だ!」なんて無理やり理解させてしまえば現実世界もろとも完全崩壊の恐れ。 もう今更なんだが・・・本当なんでもありだな、ハルヒ。 解決策はといえばハルヒに自力で夢だと気づいてもらうこと。 そんなこと超簡単だろう?と思うだろう? 考えても見てくれ。俺たちが夢を見ているとき、その状態で今起こっていることは夢なんだ!と気づけたことが何回あった? つまりはそういうことである。 それに、覚めた後にはありえない夢だったと気づけても、夢を見ている最中には可笑しいなんてこれっぽっちも思わないだろう? そう。だからこそハルヒは乗るたびにコースの変わるそのジェットコースターに一つも疑問を持っていない。 ちなみに朝になるまで待てば自然に起きるだろう、なんて解決策は真っ先に断たれたぜ? さっきも言ったが、もう現実とごっちゃになりかけ。現実の時間概念は今のハルヒには作用しない。(長門談) どうにかハルヒに自力で夢だと気づいてもらう必要がある。 運が悪ければこの世界はこの遊園地の敷地内だけになり、5人は一生をここで終えなければならなくなるのだ。 だからな、みんな。遊ぶのもいいがもう少し真剣に考えてくれないだろうか。 時間がかかればかかるほどこの世界の侵食は進み、元に戻れるかは困難になるって言ったのはお前だぞ、長門。 ・・・その長門はハルヒと33回目のジェットコースターを楽しんでいるが。 「いや~、参りましたね。」 あのな古泉。笑顔でゴーカートをさんざ楽しんできて「参った」なんて、普通の人間なら言わないぜ。 「フフ。でもこんな経験、多分二度とできないと思いますよ?」 無人のカートが勝負相手になってくれるゴーカートなんざ、二度も三度も楽しみたくはないね。 朝比奈さんは・・・今度はメリーゴーラウンドか。白馬にお姫様のように座る姿が美しい。 ハルヒ、どうせ創るならなら売店も組み込んで創ってほしかったぜ。ここにカメラが無いのが非常に惜しい。 まぁカメラが存在しようと現実世界には持ち帰れないだろうという答えに3秒で到達したので諦めるが。 しかしよく逃げないもんだな。あれ。 「メリーゴーラウンドって文献でしか見たこと無いんですけど、本物の馬なんて使ってるんですね~。私、びっくりしました~。」 ・・・どうしよう。本当のメリーゴーラウンドがどんなものなのか教えた方がよろしくないか? アトラクションは全自動。俺たち5人以外誰もいない。ついでに出口も存在しない。 もはや牢獄と言ったほうがいいだろう、これは。 なんて考えながらジェットコースターに目をやると、それはもう何回転すればゴールに着くのか分からないような渦の塊になっていた。 多分そろそろジェットコースターに飽きるだろう。 さぁて、どうやってハルヒに夢と気づいてもらうか。 古泉と2人、バイキング形式で従業員のいないレストランフロアに入り、栄養を取りつつ頭を働かせる。 無人ゴーカートを見ても、タイヤのついたコーヒーカップを見ても、実物仕様のメリーゴーラウンドを見ても、 変幻自在のコースを持つジェットコースターを見ても何も疑問に思わないんだぜ? どうすればいいんだよ。 「逆に考えればいいんですよ。この世界は涼宮さんの退屈による不満で創られた世界。 ならば楽しませればいいのですよ。」 誰が? 「勿論──あなたですよ。」 気が滅入る。ハルヒと2人で本物の殺人鬼が出てきそうなお化け屋敷に行ったり、 宇宙まで届いてそうなクレイジータワーに乗ったり、高速回転中の観覧車に乗らなければならんのか? その前にショック死すると思うぜ、俺。 「それもそうですね。あなたが死んでしまっては元も子もない。」 笑顔で物騒なことを言うな。 「失礼。ですが・・・少しばかり危機が迫っているのかもしれません。周りを見てください。」 いつのまにか夕日が差していることに気づく。 「説明していただこうか?」 笑顔のまま溜息をついた後、こんなことを喋りだす古泉。 「このまま夜になれば、恐らくあちらのホテルに泊まることとなるのでしょう。」 指差す方を見てみると、敷地の中央に聳え立つ豪華なホテルがそこにあった。 「夢の世界で眠りにつく。ということはです。」 普通の人間ならば寝て夢を見て、起きれば現実世界。だが・・・ 「次に目を覚ました時、完全にこの世界は固定されてしまうことでしょう。」 ・・・どうすればいい? 隣に置いてあったリーフレットの束からチケットを取り出す古泉。 「ふぅ、やはりありましたね。」 それは一体何なんだ。何故お前は既に知っているかのようにそれを手に取ったんだ? 「これはちょっとした賭けでしたよ。いえ、むしろ涼宮さんの賭けと思った方がよろしいかと。 今は僕が探し当てましたが、これは僕がいなくても必ずあなたの元に現れたはずです。」 さぁ、とそれ以上何も言わずチケットを俺の手に押し込む古泉。 ───── ────────── ─────────────── やれやれ。ようやく現実世界に戻ってこれたわけだが。 ああいった面白おかしな世界もまぁ全く楽しくなかったと言えば嘘になるが・・・ あれから数日。今日は何度目になるのか忘れたがいまだ皆勤賞のSOS団不思議探索の日だ。 あれから結局どうなったかって?古泉も聞いてきたが特に何もないのだ。 あの後、手にしたチケットを見てみるとそこにはディナー招待券と書かれていた。 ハルヒと食事をしてご機嫌を取れってことか。しかしどうやって誘うべきか・・・ とベンチに座って考えていたら不意に後ろに現れたハルヒに奪い取られてしまったのだ。 一部始終を語るとすれば・・・次の通りだ。 「何のチケットと睨めっこしてるのよ。一人で楽しもうなんて、そうはいかないんだから! なになに・・・?・・・ディナー券?」 あぁ、一緒にどうかと思ったんだが。 「ふーん・・・まぁ、行ってあげてもいいわよ?このままじゃ券も勿体無いしね。 でも、他の3人はどうするの?食事。」 夢の中では少しは気を回せる性格なんだな、お前。・・・それはともかく。 「古泉たちなら別のチケットで他のレストランで食事中だ、今頃は。」 こんな誤魔化しかたでバレやしないかとは思ったが、流石夢世界ハルヒ。些細なことは疑問にはならない頭のようだ。 ・・・もしかしたら分かっているもののあえて気づかないフリをしてるのかもしれんが。 着いたレストランはそれは豪華なレストランだった。 やはり人は誰もいなかったが。 チケットに書かれていた席には既に料理が並べられている。 「演出かしら?斬新だわ。」 と一人納得してしまうハルヒ。 今さっき出来たばかりの料理のようで、全く冷めていないようだ。 さぁ料理を食べようとさっさと席に着くハルヒと俺。 何故そんなことを言ってしまったのか?と自問すれば、このままでは何も進展しないぞと思ったんだろうな、俺は。 ハルヒに現実に戻ってもらうために、こんなことを口にしてしまったのだ。 「なぁ、ハルヒ。今日だけじゃなく、いつかまた2人で遊びに来たいな。 最近出来た海辺のテーマパークとか結構評判いいらしいぜ?・・・どうだろうか?」 次の瞬間、俺はまたもベッドの中にいた。 夢だったのかといえば確かに夢だった。 時間は・・・明日にはなっていなかった。紛れも無く今日の明朝であり、登校前のバタバタしなくてはならない時間までまだ3時間程余裕がある。 携帯を確認してみると3件、すなわち、古泉、長門、朝比奈さんから1件ずつ着信が入っていた。 おかしな事を言っていると自覚するが、その着信によってあれが夢だったと確信できたのだ。 「まぁ、何があったのかは知りませんが、とにかくあなたには感謝しっぱなしです。今回もありがとうございました。」 よせよ。俺はただハルヒと飯を食っただけだ。・・・いや、食うことは出来なかったが。 あぁ、しまったな・・・あの料理食べてからにすりゃ良かったな。勿体無いことをしたもんだ。 「ところで今日の活動は涼宮さんから聞いていますか?」 いいや?どうせ今日もいつもの通り、なんのプランも無いまま街をうろつくだけだろう? 「そうでしたか。いえ、それなら涼宮さんから直接聞いたほうが良さそうです。丁度・・・ほら、やってきましたよ。」 何のことだろうか。相変わらずハルヒはこの団員1号の俺には連絡をよこさないことが多い。 「あら、珍しいわねキョン。今日も遅刻してくるのかと思ったのに。」 ここ5連続で俺の奢りだったからな。たまには早く来ておいて誰かに奢ってもらうのがいいだろう。 ・・・それよりも。 「今日は何をするんだ?俺以外全員知っているようだが何も聞いていないぞ、俺は。」 「あれ?言ってなかったかしら。手頃な場所にいるからまた伝えるの忘れちゃってたわ。まぁ、たまにはこんなこともあるでしょう。」 いや、いっつもだろう。 「そんなことよりこれよ!ほら、みんな1枚ずつ取って取って!」 なになに・・・?シーサイドテーマパーク・・・? 遊園地のチケット・・・か。なるほどね。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5164.html
「涼宮ハルヒの歓喜~サンタが町にやって来た~」の続編です。 12月25日。今日が本当のクリスマスだ。 しかし、町は気の早いもので華やかな装飾は剥がされ始め、 次は正月へと向けて彩りを変えている。 学校も明日から冬休みに入る為、終業式という事で学校に来たのだが、 「う~…」 どうやら俺はサンタのトナカイ探しやらパーティーの後の一件で 雪の降る真冬に外をウロウロ歩き回ったせいで 少し風邪を引いてしまったらしい。 しんどい…咳が止まらない…休めば良かったかも。 しかし、熱っぽいのはそれだけが理由ではないだろう。 クリスマスが終わったというのに俺は未だに浮かれ気分が抜けない。 昨日の夜は結局、眠れずじまいだった。 一晩中、落ち着かなくてモソモソと動いていた。 とうとうやっちまった…俺はとうとうやっちまったのだ…あのハルヒに… いきなりあんな事やるなんてあの時の俺はどうかしちまってたのか!? いきなりハルヒに抱きついて、今でも思い出すと 恥ずかしくて顔が真っ赤になりそうな台詞吐いて、 手を繋いで…やばい、また熱が出てきた。 その後、結局ハルヒを家に送り届けるまでの道で 2人共、照れと恥ずかしさでお互いまともに顔を見る事も 言葉を交わす事さえも出来なかった。 別れ際の「おやすみ」が精一杯だった。 俺はどんな顔してりゃ良いんだ? ハルヒはどんな顔して後ろの席に座るのだろうか? 緊張してきた…やっぱり今日は学校休めば良かったかも。 昨日の夜は全っ然、眠れなかったわ…。 どんな顔して学校行けば良いのよ? 普通に「おはよう」とか言って席に着けば良いかしら? でも、それだと何にもなかったみたいに受け流す冷たい嫌な女だわ… かと言って今更、可愛い子ぶりっ子なんて出来ないし!したくもないし! あぁ!!もう!!こんなの中学までで散々慣れてたはずなのに! なんでキョン如きにこの私がここまで悩まなされきゃいけないのよ! 雑用係のくせにいきなり団長様を抱き締めてくるとか反則よ! キャラ崩壊の危機だわ! とりあえず、今日は早めに学校行って絶対、キョンより先に席に着かなきゃ。 やっぱり何事も最初が肝心なのよ! イニシアチブは常に私が握っておかないと! 「あいつ…なんでもう教室にいるのよ!!」 早いわ!早過ぎるわよ!だってまだ7時半前よ! 全校生徒のほとんどがまだ来てないし、絶対に私が一番乗りだと思ってたのに! 教室に二人っきりなんて余っ計に気まずい空間じゃないのよ! 仕方が無いわ、とりあえず時間稼ぎに部室棟に…あっ…… 突然、教室の扉が開き、キョンと目が合った。目の前に立っている。 「おぅ…」 2人共、突然の事に驚いて固まっていたかと思うと咄嗟に視線を逸らした。 「あの、その、何だ……」 「……な、何よ?」 黙ってないで何か言いなさいよ! 「い、いや…お、おはよう…」 「おはよう…」 「…ちょっとトイレに行ってくる!」 キョンは廊下に出てトイレの方へと歩いて行った。 びっくりしたぁ~…何でいきなり出てくんのよ!?バカキョン!! びっくりしたぁ~…何で突然目の前に現れるんだよ!?ハルヒ!! でも、これで予想外とはいえ何とか挨拶は出来た。 これで少しは落ち着いて行ける!(はず…) 教室に戻るとハルヒはこちらに背を向けて窓の外の遠くの方を眺めている。 配置から考えるに俺の方から声を掛けないと行けない状況のようだ。 くそっ、やられた…せっかく朝に弱い俺が頑張って早くから学校に来て ポジションを先取してたのにトイレに行ったせいで攻守交代だ…。 席に座って待っているとキョンが戻ってきた。 やっぱりまだ恥ずかしくて顔を見る事が出来ない。 わざとらしいかなと思いつつ、頬杖をつきながら 窓の外の空から降ってくる雪を見ていた。 「今日は早いんだな」 あんたのせいよ! 「ま、まぁね…終業式だし、一年の最後くらいはきっちり締めたいじゃない!? あんたこそ、早いわね!」 「あぁ、そうだな…」 なんて可愛くない返事しか出来ないのよ!私! 2人しかいない朝の静かな教室に気まずい沈黙が流れる…… 突然、キョンが咳き込んだ。 「あんた、風邪引いてんの?」 「あぁ、ちょっとな」 「うつさないでよね、別に今日くらい家で寝ときなさいよ! どうなっても知らないわよ!」 違うわよ!私の馬鹿!そんな言い方無いでしょうが! 「いや、今日だけは何があってもちゃんと学校来たかったから」 え? 「いや、その…あの…昨日のあれ、な……」 そこまで言ってキョンは顔を逸らし、会話が途切れた。 「まさか、あんた、あんな事しといて冗談でしたとか言うつもり!?」 そんなのマジ、許さないわよ…。 「いや!違う!あれだ…それは何というか…逆だ…」 「逆?」 「昨日のあれな…あれ、本気だから。 それだけはメールや電話じゃなくて今日、ちゃんと直接会って言いたかったんだ。 そうしないとお前に怒られそうだからな」 「あ、ありがと…」 と、言うハルヒの俯きながら見せた、はにかんだ笑顔はすこぶる可愛く 熱に浮かれた頭と理性は吹っ飛びそうだった。 「なぁ、ハルヒ…」 「な、何?」 ハルヒは顔を上げ見開いた目をこちらへ向けている。 「今日、終業式出るか?」 「え?」 「いや、通知表も貰ったし、今日やる事って終業式くらいだろ? 学校サボって抜け出さないか?」 ハルヒが俺を無理矢理連れ出す事は何回もあったが、 俺からハルヒを引っ張り出すのは初めてのような気がする。 「サボってどうすんのよ?」 「なんか今日はハルヒと2人だけでいたい気分なんだ」 昨日の夜から何度もシミュレーションしてきたとは言え、 実際、口に出すと我ながらなんてキザな台詞だ… 「私は別に良いけど…でも、あんた風邪引いてるんでしょ!? こんな寒いのに外に出るなんて無茶したら…」 そういうハルヒの手と鞄を俺は有無を言わさず取り上げ、歩き出した。 「ちょっとキョン!どこ行くのよ!?」 そんなの決めちゃいない。 「今日は…デ、デートだ!!」 やっぱり今日の俺は相当、熱がある。暴走気味だ。 俺達は2人で何回、この坂道を行き来したのであろう? まだ生徒の数も片手で数えられるほどにしかいない坂道は雪で凍っていた。 足を滑らせないよう一歩ずつ踏みしめながら歩く。 ハルヒと2人で歩くなんて散々慣れていた事なのに今日はいつもと違う。 俺が前を歩き、ハルヒの手を引いている。 心臓が脈打ち、ただ一緒に歩いているだけで素直に嬉しい。 坂を下った所でハルヒが足を止めた。 「キョン!これからどうするのよ!?」 確かにここまで来ちまったが、さて、どうしよっかな? 「まだ何も決めてないが…」 そういうとハルヒは溜息をついて呆れたような顔をしている。 「あんた、本当に計画性のかけらも無いわね!」 お前にだけは言われたくない! ハルヒは鞄から昨日、俺があげた手袋を取り出し、はめていた。 「ほら!あんた、風邪引いてるんでしょうが!」 と、ハルヒは俺の鞄を無理矢理あさり、 昨日ハルヒから貰ったマフラーを取り出して俺の首を思いっきり締めてきた。 「く、苦しい、息が出来ないって!」 「いい気味よ!キョン如きが私に命令するなんて100万年早いの!だから罰よ!」 と、言うハルヒは俺に太陽のような笑顔を向けていた。 2人でこの道を横に並んで歩いていこう。 どっちが前でも後でもなく、2人並んで手を繋ぎ。 横を向けばあなたの顔が見える場所。 ここは他の誰にも譲りたくない指定席。 あなたの目が、鼻が、耳が、頬が、髪の毛が誰より近く見える場所――― ただ、雪の中を2人で手を繋いで歩いていた。 どこへ行くか、とか何をどうするかなんて目的がある訳じゃない。 ただ、俺はハルヒと一緒にいたかっただけ。誰にも邪魔されずに。 「ねぇ、キョン」 ハルヒはボーッとした顔で訊ねてきた。 「ん?なんだ?」 「あんたバスって乗った事ある?」 なんだそりゃ? 「そりゃあるに決まってんだろ」 「じゃあ、あのバスってどこまで行くか知ってる?」 ハルヒが指差す先には停留所に白いバスが止まっていた。 「さぁ?マニアじゃないから知らんな」 「じゃあ、乗ってみましょう!どこに向かうか探検よ!」 そんなハルヒの子供じみた思いつきはいつもの事だから驚きはしない。 むしろ、外は寒いからバスで移動するっていうのは悪い手じゃないな。 バスに乗ると朝にも関わらず誰も乗っていなかった。 人が集まる場所とは反対方向に走っているからだろう。 「空いてるな」 どこに座るかと考える間もなく、ハルヒは一番奥へとズンズン進んで行く。 「やっぱりバスは一番奥の席に限るわね!」 と、やたら嬉しそうな笑顔をしてドカッと座り込んだ。 「まぁ、奥は席が広いからな」 「あと、乗ってる人間全部が見渡せるのが良いのよね! この世の支配者~!って感じで!」 いや、それは意味が分からん…。 バスはゆっくりと音を立て雪の中を走り始めた。 揺れる度に隣に座るハルヒの細い肩がぶつかる。 バスが静かに動きを緩めて止まった。 停留所で誰かを乗せるようだ。 「さぁ、どんな面白い人が乗ってくるかしら?」 別に普通の利用客だと思うがな。 バスに乗ってきたのは老夫婦だった。ゆっくりと歩を進めている。 二人とも身体のどこかが悪いのだろうか? お互いがお互いを支え合うよう、補い合うようにこちらへと歩いてくる。 おじいさんの方が俺達に話し掛けてきた。 「おや?珍しい。この時間に人が乗ってるとはの」 「こちらどうぞ」 ハルヒは立ち上がって席を譲ろうとした。 「ありがとう。どう?一緒に座りましょうよ」 おばあさんは柔和な笑顔で俺達に促してきた。 「うちのばあさん、一番後ろの席が好きでな。 広いから夫婦で座っても誰か他の人とも一緒に座れるからって。 それが好きなんじゃよ」 俺達は席を詰め、おじいさんは優しく笑いながらおばあさんをそっと座らせた。 バスは再び、ゆっくりと走り始めた。 「君らのその制服、北高じゃろ?」 おじいさんは俺達に視線を向けている。 「はい」 礼儀正しいハルヒは久し振りに見た気がする。 おばあさんが笑いかけてきた。 「と言う事は終業式をサボって2人でデートね?」 「これ、ばあさん!」 見事にバレた…色々言われたら面倒だな。と考えた俺を見透かしたようだ。 「ふふ…大丈夫よ。私達も高校生の時にお互い授業や式を抜け出ししたものよ、 昔は見つかると大変だったけど」 おばあさんは昔を懐かしむように笑っている。 「このバスに乗っておるという事は港に行くんじゃな?」 港? 「終点じゃよ。最近は港にデートへ行くのが増えておるらしいからの。 よくある、そこで結ばれたら一生結ばれるだなんだの言う話じゃよ」 「私達の頃は何もなかったから2人でいるのに都合が良くて 港へ行ってたけど、時代は変わってるのね」 2人は笑っている。 「あそこで初めて結ばれた2人っちゅうのは恐らく儂らの事じゃよ」 「またその話ですか、おじいさん。いつも言ってるんですよ、この人」 恐らく、その噂や伝説を広めたのがこの2人なんだろう。 まぁ、生き証人が目の前にいる訳で嘘はついてないから文句も言えないが。 「喧嘩もいっぱいしたし、一生結ばれるなんてそんな可愛いものじゃないけど それはそれで悪くはない、楽しいものよ」 2人の幸せそうな笑顔を見ていると納得せざるを得ない。 「じゃあ、儂らはここで。席を譲ってくれてありがとう」 おじいさんは俺に意味ありげな視線を投げ掛けてきた。なんだ? 2人はバスを降りて行った。 「ああいう夫婦って良いよな…」 俺は何気なくぽつりと思った事を口に出しただけだったのだが… 「なっ、何言ってんのよ!?バッカじゃないの!?」 何故かハルヒは真っ赤になって怒り出した。 「でも、まぁ面白そうね!キョン!港に行きましょう!」 おいおい、まさかあんな伝説を信じた訳じゃないだろな? 「そういう伝説は見過ごせないわ!何かあるかもしれないじゃない! 不思議探索よ!ねっ!」 まぁ、時間を潰すには最適か、俺が引っ張り出した事もあるしな。 ハルヒがこんなにご機嫌になるなら断る理由も無い。 メールが来た。ハルヒと2人同時に終業式をサボったから また谷口あたりがからかいのメールでも寄越したんだろう。 無視だ、無視。 バスは静かに終点へ滑り込んで行った。 終業式も終わり、部室に足を運んでみると長門有紀の姿しか見えなかった。 「おや?長門さんだけですか?皆さんはどうされました?」 「朝比菜みくるは先程来室し、すぐに立ち去って行った。あとの2人は不明」 そうですか…彼と昨日サンタクロースに貰ったゲームをやりたいと 思っていたのですが、いないのでは仕方がありませんね。 「では、僕もここでしばらく時間でも潰しましょう」 港に着いて歩いてみると綺麗に舗装はされてあるが平日と言う事もあり、 誰も人がいないようだった。 きっと夜景が綺麗になる時間に人が集まって来るのだろう。 時折吹く強い潮風がハルヒの髪を巻き上げる。 「うぅ~…寒いわね!!」 何に対して怒ってるんだ? 雪が海に散りばめられる宝石のように落ちては消えていく。 「まぁ、景色としてはなかなかのものね!とりあえず合格にしといたげるわ!」 またハルヒは訳の分からない事を言っている。 寒さのせいで鼻水が出てきた…。 「汚いわね!!ほら、これ使いなさいよ!!」 ハルヒは鞄の中からポケットティッシュを出してきた。 「ありがと、これ貰って良いか?」 「好きにしなさい!!」 さっきから笑ったり怒ったり忙しい奴だ。 そういうハルヒを見てるのは面白いんだけどな。 「何、ニヤニヤしてんのよ!?気持ち悪いわね!!」 「ん~?いや、コロコロと表情が変わるから面白い奴だなぁ~と思って」 俺は今、意地悪な笑い顔になってるに違いない。 「う、うるさいわね!!」 ハハ…今度は真っ赤になって照れてる。本当に面白い、そして… 「…可愛いな」 お、今度は驚いて目を見開いている。 「バ、バ、バッカじゃないの!?あんた何!? さっきから私の事、馬鹿にしてんの!?あんまり調子に乗ってると…」 ―――!!! ハルヒのよく動く唇を塞いだ。 町の喧噪は消え、静かに降る雪も動きを止めた。 風の音だけが遠くで聴こえる。 時間が止まったかのようだった。 「……ちょっと調子に乗り過ぎたからまた罰金かな?」 「本当に調子に乗り過ぎよ…馬鹿…」 ハルヒは俺の手を握り締めたまま俯いている。 「もうちょっと雰囲気とかタイミングってもんがあるでしょうが… 本当にデリカシー無いわね、バカキョン…」 「ハハ…すまん。あと俺、風邪引いてるのすっかり忘れてた…ハルヒにうつるかもな」 ハルヒが抱きついてきた。 「もし風邪引いたら責任取りなさいよね…」 「そうだな、分かった。」 この笑顔をずっと守っていこう…俺はそう誓って 昨日よりも、もっと強くハルヒを抱き締めた。 「あと、ハルヒ……」 「……何よ?」 「お前の唇って柔らかくて暖かいな」 鞄で思いっきり殴られた。 新しく手に入れたボードゲームの説明書を読みながらゲームの研究をしていた。 彼にはかなり大きく負け越してしまってますからどうにかして 勝ちを積み重ねていかないと卒業までに逆転するのは難しそうです。 彼は僕の予想ではきっと人類史上、類い稀なるゲームの達人、 恐らく天才なのではないかと考えています。 まぁ、彼以外とはあまりゲームをやる事はないのですが…。 そういう意味では彼も涼宮さんに選ばれた特異なる人間の一人なのでしょうか? そんな事を考えていると携帯が鳴った。どうやらメールが来たようです。 機関から?閉鎖空間発生?彼らはどこへ行ったのでしょうか? また彼は凉宮さんに何かしでかしたのでしょうか? 「長門さん」 長門有紀は何かを察知しているのか、もうすでに僕の方へ視線を向けていた。 「もし彼らが来たら伝えておいて下さい。急なバイトが入ってしまいました、と」 「…了解した」 ハルヒは照れているのか俺の顔を全く見てくれない。 と言う俺も心臓が破裂しそうなのだが…。 気が付いたらお昼を過ぎていた。どおりで腹が減る訳だ。 どこかで昼飯でもと思ったが、終業式も終わってる時間だろうし、 途中で何か買って部室で食べようと言う事になった。 学校へ戻る為、バスが来るのを待つ停留所は寒い。 缶コーヒーを買って2人で手を暖め合った。 バスに乗るとハルヒはまた一番奥の席へとズンズン進んで行った。 よっぽど一番奥の席が好きなんだな…。 この時間帯は乗客もまばらで俺達の他には数人しか乗っていない。 ハルヒは俺の手の上に細く長い指を絡ませている。 車内は暖房が効いていて暖かい。 エンジンの心地良いリズムと揺れも相まってハルヒは眠気が襲ってきたのであろう。 俺の肩に頭を乗っけて眠りこけている。 子供のような寝顔だ。 かくいう俺も少し眠くなってきた…。 俺も少し居眠りしようかと考えた、その矢先だった。 大きな音と衝撃と共に目の前が雪化粧に包まれたように真っ白になった――― 大きな音と衝撃で目を覚ますとどっちが上か下か分からくなっていた。 キョンが私に覆い被さってきている。 「ちょっとキョン!いくら何でも調子に乗り過ぎよ! バスの中で私の寝込みを襲うなんて変態にもほどがあるわよ、エロキョン!」 キョンの体を突き飛ばそうとした。しかし、キョンからの返事はなかった。 「キョン……キョン?」 私の肩にキョンの腕がただ力なくぶらりと垂れ下がっていた。 ふと手に暖かい感触が残る。 血だった。 キョンが頭から血を流していた。 「嘘…いや…」 私はキョンにしがみついていた。 「嘘でしょ…冗談でしょ…やめてよ、キョン…ねぇ、キョン…」 自然と涙が込み上げてきた。人前でなんか泣いた事ないのに…。 「キョン!!!キョン!!!いやぁぁああ!!!!!!!!!!!」 私はありったけの大声で彼に向かって叫んだ――― 長門さんからのメールを見てズキンと胸に何かが刺さるような感触がして重くなった。 私が病院に向かうと彼らの家族、そして彼らのクラスメイトの何人かがいた。 キョン君の妹さんはキョン君の名前を呼びながら泣いている。 その中に長門さんと鶴家さんが静かに立っていた。 「みくる…」 鶴家さんは目を赤く腫らしていた。 事の詳細を訊ねると雪道でスリップした大型トレーラーが 彼らの乗っていたバスに突っ込み、バスが横転してしまったらしい。 その時にキョン君は頭をぶつけ、意識が無く現在、手術中だと言う事だ。 凉宮さんは精密検査を受けているらしい。 凉宮さんはキョン君が咄嗟に体を投げ出し、覆い被さったお陰で ほとんど無傷だったようだ。 精密検査を終えて出てきた凉宮さんはずっと 泣きながらキョン君の名前を叫んでいた。 凉宮さんの叫びが責められているようで胸に強く深く突き刺さる。 キョン君の手術は長引いた末に終わったようだ。 まだ意識は戻らず予断を許さない状態で集中治療室にいる。 私は…私には… 「ねぇ、キョンは…キョンはどうなったの?ねぇ、教えて!!」 私はひたすらに病院の廊下でそればかり叫んでいた。 それ以外に何も関心は無かった。 手術は終わったとは聞いた。でも、その後は誰も何も言わない。 キョンのご両親と医者がこちらへと歩いてきた。 お母さんの方が声を掛けてきた。 「あなたがハルヒさん?」 「はい、彼に……一目だけでも良いので彼に会わせて下さい!!」 キョンのご両親は医者の方へちらりと視線をやり、医者が頷いた。 「あなたも事故にあったのにこんな事頼むのもあれなんだけど 行ってあげてくれないかしら?」 キョンは眠っていた。 顔に傷も無いせいだろう、本当に眠っているようにしか見えなかった。 私は彼の手をそっと握った。 きっと私が無傷だったのはキョンが体を張って守ってくれたからだろう。 「ありがとう、キョン」 涙が溢れてきた――― その時だった。私の手をキョンの手がそっと包んできた。 キョンの目が静かに開く。 「キョン…キョン!!」 状況が掴めてないのかキョンは虚ろな目をしている。 「キョン!!」 こちらに視線を向けてきた。 「ハルヒ……」 私の涙がキョンの手に落ちた。 「ハルヒ、無事だったんだな……」 「…馬鹿。なんでこんな時まであんたは…人の心配する前に自分の心配しなさいよね」 私は無理して笑った。 「だ、団長命令よ…早く元気になりなさい… SOS団の活動はまだまだいっぱいあるんだから… それに…これからは…一緒に…2人で…」 私は声を出そうと思ったが、涙に遮られた。 「ハルヒ…」 「…何よ?」 「実は昨日の夜の…ドキドキであまり寝てないんだ……」 「…うん」 「だから、ちょっと寝かせくれないか…」 「…うん」 「…そんなに泣くなよ、笑ってるハルヒの方が俺は好きだぞ」 「…うん」 「おやすみ……ハルヒ…」 「おやすみ……キョン…」 2人は柔らかく、暖かく、そっと唇を重ねた……。 それは永遠よりも遥かに長い長い…一瞬の出来事だった―――― 私は…私には…止められなかった…。 分かっていても止める事は出来ないし、 止めてはいけない事だとも十分、承知していた…。 覚悟はしていた。でも…我慢出来ず、最後に一目だけでも会いたくて キョン君にメールをした…返事は来なかった…後悔だけが残る…。 自分の無力さに…そして皆で過ごした日々に…。 あれから三日後。 キョン君の葬儀を終えた私と長門さんは彼女の、凉宮さんの元へと向かった。 小泉君はあれ以来、姿を見せていない。 凉宮さんはキョン君の死が受け入れられず、まだ病院にいる。 治療室から運び出される時も彼の手を離すまいとしがみついていた。 凉宮さんの病室の前まで辿り着いたものの、なんと声を掛けようかなどと 入るのを躊躇っていると、声を掛けられた。 彼にいつもの笑顔はなく、暗く沈んだ顔をしている。 「小泉君……」 「先程、彼に会いに行ってきました。何というか…まだ実感が湧きませんね…」 「…私もです、小泉君はもう大丈夫なんですか…」 彼は寂しそうに首を横に振った。 「もはや世界は僕らの手の届かない状態になりつつあります。 大きく改変される事になるかもしれません。 機関の人間も様子を見守るしか出来なくなってしまいました…」 彼は彼なりにここ数日、大変だったのだろう。 キョン君や凉宮さんの事に思いを馳せつつ…。 「先程、彼のご両親からこれを預かってきました」 と、小泉君は封筒を取り出した。 「凉宮さんへの預かり物です。彼のノートに挟んであったようです」 僕ら3人で病室に入ると凉宮さんは重く暗く沈み、 ベッドの脇にある椅子に座って空を虚ろな目で眺めていた。 どうやら僕らの声は届かないらしい。 「これは彼から凉宮さんにあてた手紙のようです。ここに置いておきます」 窓際に封筒を置いて僕らは立ち去った。 凉宮さんに掛ける言葉も思い付かなかったからだ…。 凉宮さんの病室の前のベンチに座ると朝比菜みくるが静かに泣き出した。 「朝比菜さんは…」 誰もいない暗い病院の廊下に僕らの声が響き渡る。 「…この事実についてご存知だったんですか?」 朝比菜みくるは何も答えずにただ黙って頷いた。 「そうですか…だからクリスマスにサンタクロースが空を飛んでいる姿を 皆で見ようと提案なさったんですね…」 「…せめてこんな形になるとは言え、最後に皆で想い出を残したかったんです。 …私はこの出来事を見届ける為だけにこの時代に送られたと言っても 過言ではありません。それほど今回の事は未来においても重大な事なんです」 「…彼を助ける事は出来なかったんですか?」 言葉に出して酷い事を聞いてしまったと後悔した…。 助けられるものなら助けていただろう。その時、長門有紀が口を開いた。 「…これは彼の寿命。どういう形であれ、今年12月25日時点での彼の死は 確定していた。変更する事は不可能。例え、それは凉宮ハルヒの力をもってしても。 それはあなた達が一番よく理解しているはず」 これは長門有紀なりの僕らへの慰めの言葉なのだろう…。 「はい…今回の事は…未来では……き、規定……」 「朝比菜さん…」 僕は首を横に振り、彼女の言葉を遮った。 「少なくとも、僕らSOS団の人間にとって…… 彼の死は……決して、規定事項なんかじゃありません。決して……」 「……そう」 長門有紀は静かに頷いた。 12.24 ハルヒへ いきなり柄にも無く、手紙を書いてみようと思う。 何故なら、興奮して眠れないからだ! お前はどうなんだろうか?ハルヒ。 全く気にもせずに涎垂らしたアホ面で眠っているのだろうか? しかし自分自身でも不思議なんだ。 正直、お前に初めて出会った時は見た目はまぁ、悪くはないが、 頭の中身がぶっ飛んだおかしな女だとしか思っていなかった! 髪型も短くする前は時々、変だったしな。 それが新しく部活作るから手伝えってネクタイ引っ張られて階段の踊り場に 連れて行かれた時はカツアゲでもされてるような気分だった。 しかもSOS団なんて世の中の不思議を探す為とかいう妙な目的の元、 珍奇な集団を作って、俺は巻き込まれた感たっぷり。 でも、今は楽しい! 長門や朝比菜さん(まぁ、仕方が無いから小泉も入れといてやろう)、そしてハルヒ。 団長のお前がいてこそのSOS団だ。 お前がいるから楽しいし、面白いから俺もついつい部室に足を運んじまう。 最初は朝比菜さんと一緒にバニーガールの衣装で SOS団の勧誘ビラ配りしたり、(まぁ、あれはあれで悪くはなかったが…) コンピュータ研から無理矢理パソコン取り上げたり、 何の知識も無い俺にHPを立ち上げろと命令してきたり、 なんて無茶苦茶な奴なんだと呆れてばかりいた。 でも、考えたらハルヒと一緒にいる時はいつも笑える楽しい事ばかりだ。 皆で不思議探索をするのもなかなか見つからないが悪くはないし、 七夕に一緒に短冊作ったり 夏休みに孤島に合宿行ったり(夏休みは結局、ほとんどSOS団の皆で遊んでたし) 学園祭の為にSOS団の皆で映画作ったり(大喧嘩もしたが…) クリスマスには何故か鍋パーティーが恒例になったり、 雪山で遭難なんて事もあったな。 サンタが空を飛ぶなんていう不思議な事にもようやく巡り会えたし、 お前と過ごしているうちに俺のハルヒへの想いも少しずつ変わってきたんだろうな。 次は初詣か?俺の願い事はもう決まってるが教えないぞ。 人に教えたら願いが叶わないからな。 とにかく、これからももっと楽しいイベントが盛りだくさんだな! で、結局、俺は一体、ハルヒに何が伝えたいのかと言うとだな、 いきなり結論だが、昨日の夜、お前を抱き締めて言った事。 あれは本気だ。結構、緊張したがな。 そういや、ハルヒからのちゃんとした返事は貰ってないが、 何となく流れ的にOKだったのかな、と勝手に解釈しとくぞ。 だから、次のバレンタインチョコは義理じゃなくて本命でくれよな。 それともう一つ、ハルヒに頼み事があるんだ。 俺達、来年は受験生だろ? ハルヒがどこの大学に進むのか知らないけど、 きっと今の俺じゃ手も届かないような所だと思う。 だから頼む。俺に勉強を教えてくれ。 俺も頑張って1年でどうにかしてお前の成績に追いつくから。 だからハルヒ、一緒に同じ大学に行こう! そしてな、大学でまた俺達で新しいサークルを作ろう! その名も『SOS団』!!!! 悪くないアイデアだろ?問題は俺の成績なんだがな…。 これからまだまだたくさん楽しい事、笑える面白い事があるだろうし、 喧嘩をする事もきっとあるかもしれん。 だけど、これからもずっと宜しくな、ハルヒ!! SOS団・団員その一、兼雑用係のキョンより SOS団・団長様、そして世界で一番大切な恋人、ハルヒへ p.s.不思議探索の時の遅刻罰金制だけどな。 あれ、俺、一回も遅刻した事ないぞ。 皆、来るのが早過ぎるだけだ。あれだけは考え直してみてくれ。 枯れたと思っていた涙が溢れ出してきた…。 彼の深く、優しい想いが胸の中に流れ込んでくるようだった。 私も昨日の夜、眠れずに考えていた。 初詣のお願い事を…バレンタインにキョンにあげるチョコレートを…。 SOS団の皆でお花見行って…七夕には笹の葉飾って… 夏休みには合宿行って…海で泳いで… 学園祭では出し物やって… クリスマスには鍋パーティーやってプレゼント交換して… まだまだやりたい事がいっぱいあった…… なんでもっとあなたに優しく出来なかったのか… なんでもっとあなたの前で素直になれなかったのか… 後悔と寂しさの涙ばかりが頬を伝っていく…。 なんでもっとあなたと過ごす時間をかけがえの無いものだと大切に出来なかったのか… なんで…… ごめんね、キョン……そして、ありがとう、キョン…… 溢れる想いはもう言葉にならなくなった…… ただ、あなたと、もっと…ずっと…ずっと一緒にいたかった―――― The End 涼宮ハルヒの嫉妬へ続く
https://w.atwiki.jp/yuriharuhi/pages/44.html
「そういえば有希の誕生日っていつなの?」 いつものように集まった喫茶店の席で、思い出したような顔でハルヒが聞いた。 長門は手元の分厚い本から目線を上げ、不思議そうな表情で団員それぞれの顔を見たあと、 ハルヒを見つめて固まってしまった。 「どうしたんだ?突然」 「やっぱり団長たるもの団員の誕生日くらいは祝ってあげないとね」 ハルヒは有難がれとばかりに胸を張っている。 俺の誕生日は知らんくせに。 「で、いつなの?過ぎてからではお祝いのしようもないからね」 続けられた質問に、長門はきょとんとした無表情のまま俺のほうに顔を向ける。 「どうすれば」と言わんばかりに。 そう言われてみると、長門の誕生日はいつになるのだろう。 厳密に言えば3年前の情報フレアとやらの日なんだろうが、それじゃこいつは3歳ということになってしまうしな。 まぁ誕生日なんて調べてわかるもんでもないだろう。 適当に決めちまえばいいさ。 ながとだから7月10日とかね。 産まれた日がいつかなんてハルヒも気にしやしないさ。 そんな風に考えながら笑顔を向けてやると、長門はわかったとばかりに数ミリだけうなずいて、ハルヒに向かって 「今日」 と告げた。 おいおい、お前の誕生日が何月何日でも誰も迷惑しないが、今日ってのはないだろ。 突然すぎるぞ。 しかし、言ってしまってはもう遅い。 ハルヒはテーブルに勢いよく手をついて立ち上がると、 「何で言わなかったのよ!?有希?」 店内に響き渡る声でツバを飛ばしながら叫んだ。 朝比奈さんまで 「そうですよー」 なんて言って困った顔をしている。 あなたは気付いてください。 それは長門が今設定した誕生日ですよ。 古泉は古泉で、 「プレゼントを用意していませんね」 などと肩をすくめて微笑んだ。 お前は芝居がかりすぎだ。 「そうよ!プレゼント!準備してないじゃない!」 ハルヒは立ったまま続け、 「有希、今欲しいものある?」 テーブル越しに、こればっかりは優しい口調で問いかけた。 「今日は有希の誕生パーティに変更するわ!さぁ、なんでも好きなものを言っていいのよ」 長門はやっぱり無表情のまま…それでも考えるような仕草をわずかに見せて、 「遠慮することないのよ」 と微笑みかけるハルヒの胸のあたりに視線を止めた。 「え?何?」 俺も興味があった。 ハルヒを見つめる長門が、何を欲しいと言い出すのか。 真っ黒な瞳が少しだけ動き、「いいのか?」と問うようにハルヒの顔を見上げて、 「洋服」 「…服?」 長門が見ていたのはハルヒの体ではなく、着ている布のほうだった。 「いいわ!有希、思いっきり可愛いの選んであげる!」 ハルヒは、先ほど驚いたときと同じ様に机を叩いて立ち上がり 長門の好みを問いただし始めたが、長門の視線はハルヒの胸あたりに固定されたまま動かない。 何かを言いそびれたように、俺には見えた。 「涼宮さん」 長門の表情を読もうとしている俺の向かい側に座っていた古泉が口をはさむ。 皆の顔が自分のほうに向くまでゆっくりと間をつくってから 「僕が思うに、長門さんは今涼宮さんが来ているそのカーディガンが欲しいのではないでしょうか。違いますか?」 微笑みたっぷりで妙なことを言いやがった。 確かに、長門の視線はそこに止まっていると言えなくもないが… 「そうなのか?長門」 重金属みたいな瞳がゆっくりとこちらを向いた。 「そう」 わずかに顎を引く。 「許されるなら」 そう言ってその瞳は、俺から視線をはずしてハルヒを見上げた。 その時俺は真っ白い能面みたいな無表情の中に、 小動物が抱いてくれと懇願するときの様な、そんな雰囲気を感じとった。 「そりゃいいけど…。お古でいいの?サイズもちょっと大きいかもよ」 若干照れながらハルヒは着ていたカーディガンを脱ぎ、顔の横で示すように広げた。 長門はそれを肩から先だけ動かして受けとると、確かめるように胸に抱き締めた。 「あなたが着ていたという事実が大切」 横で朝比奈さんが顔を真っ赤にして口元を押さえている。 俺も少し赤くなっていたかも知れないが…。 誰より赤面していたのは、他でもない、ハルヒだった。 次の週末、いつもの駅前には珍しく私服の長門がいた。 少し大きめの白いカーディガンの袖口から、生地よりもっと白い指先だけが見えている。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3322.html
「あんた・・・誰?」 俺に向かってそう言ったのは涼宮ハルヒだ。 あんた?誰?ふざけてるのか?嘘をつくならもっとわかりやすい嘘をついてくれよ! だがハルヒのこの言葉は嘘でも冗談でもなかった。 この状況を説明するには昨日の夕刻まで遡らなければならない。 その日も俺はいつものように部室で古泉とチェスで遊んでいた。 朝比奈さんはメイド服姿で部屋の掃除をし、長門はいつものように椅子に座って膝の上で分厚いハードカバーを広げている。 ハルヒは団長机のパソコンとにらめっこしている。 いつものSOS団の日常だった。 「チェックメイト。俺の勝ちだな古泉!」 俺はいつものように勝利する。 「また負けてしまいましたか。・・・相変わらずお強いですね。」 微笑みながらこっちをみる古泉。 俺が強い?言っておくが俺は特別強くなんかないぞ!おまえが弱すぎるんだよ古泉! まぁこの微笑野郎が本気でやっているかどうかは疑わしいもんだが。 そうだったら腹がたつな! 「今日はここらでやめとくか。」 「そうですね。続きはまた明日とゆうことで。」 ニコニコしながらチェスを片付け始める古泉。 すると長門がハードカバーを閉じる。 同時に下校の予鈴が鳴った。 ハルヒが立ち上がって鞄を肩にかける。 「さぁ、あたしたちも帰りましょ!」 ハルヒの号令に俺たちは帰宅の準備を始める。 「たまにはみんなで一緒に帰りましょ!」 ニコニコしながら腕を組んでいるハルヒ。 「そうだな、たまにはいいかもしれないな。」 今思えばこのときが運命の分かれ道だったのかもしれない。 帰りの支度を終えた俺たち5人はいつもの坂道を下り始めた。 先頭に俺、隣にハルヒ、俺の後ろに朝比奈さんと古泉がいて最後尾に長門がいる。 「ねぇ、キョン。あんた土曜日ヒマ?」 ハルヒが歩きながらこちらを向く。 土曜日か…ヒマと言えばヒマなんだが俺には睡眠という名の立派な業務がある。 「まぁどうせヒマでしょ?あたし叔父さんから映画のチケット2枚もらったのよ!特別にあんたを招待してあげるわ!」 正直俺は映画館のあのかったるい感じが嫌なのだがハルヒにしちゃまともな誘いだ。特に断る理由もないだろう。 「映画ねぇ。別にいくのはいいんだがどんな映画を見に行くんだ?」 こいつのことだからSF物かもしくはホラーか?まぁそれなりに楽しめる内容だといいんだが。 「あ、あたしもまだどんな映画だか知らないの。」 「チケット貰ったならタイトルくらいわかるだろ?」 そう返すと何故かハルヒは顔を赤くする。 「べ、別にいいじゃない!どんな映画でも!」 嫌な予感がするな。こいつがタイトルを言えない映画ってなんだ? まさか恋愛ラブストーリーだったりしてな。 「と、とにかく土曜日空けときなさいよ!」 まぁいいか。 ハルヒがどんな顔して恋愛ものを観るか楽しみでもある。 そんな会話を俺とハルヒがしていると聞いていた古泉が微笑声をもらしながら近づいてきた。 「お二人方、週末は映画館でデートですか。お熱いですねぇ。」 うるさい古泉。おまえはいつも一言多いんだよ。 「デ、デートじゃないわよ!キョンはただのオマケなのよ!勘違いしないで頂戴古泉君!」 そこまでむきになって否定しなくてもいいと思うが… 「そうゆうことにしておきましょう。」 ハンサム野郎は再び微笑して頷いた。 ここまでは普段どおり何ら変わりはなかったが事件はこの後起きる。 坂道を下ると大きな交差点にぶつかった。 信号は青だ。 俺はハルヒの誘ってきた映画のことを考えながら渡り始めた。 このとき俺がよくまわりを見て渡っておけばあんなことにはならなかったかもしれない。 突然、大きなブレーキ音とともに俺の横に一台のバイクが突っ込んできた。 「危ないキョン!」 ハルヒは俺に飛びついて俺を転ばせた。 俺とハルヒはそのまま転がる。 危機一発。俺は寸前のところでハルヒに助けられたようだ。 「・・・っ・・・なんて乱暴な運転しやがる・・・」 俺は体を起こしながら辺りを見る。 「大丈夫ですか!?」 古泉たちが駆け寄ってきた。 「・・・なんとかな。ハルヒ助かったぜ!」 俺はそう言いながら隣に倒れこむハルヒを見た。 ハルヒは道路に倒れこんだまま目を瞑っている。 「おい!ハルヒ?」 ハルヒは応答しない。 その場にいた全員が言葉を失った。 ハルヒはぐったりして目を瞑ったままだ。 「お、おいハルヒ!しっかりしろ!」 ハルヒの体を抱き寄せ問いかけるが返事はない。 「動かしてはいけません!」 そう言って古泉は電話を取り出し救急車を呼ぶ。 なんでこんなことに… 「頭を強く打ってます!もう少しで救急車が到着します!あまり動かさないで下さい。」 真剣な顔で古泉は俺を見つめる。 すると長門が俺とハルヒの前に来るとハルヒの頭に手をかざした。 なにやら呪文を唱えているようだ。 そして俺を見ると一言だけ発した。 「心配いらない。傷は塞いだ。」 長門がそう言ってくれたおかげで俺は平静を取り戻した。 長門が大丈夫だと言うんだ。すぐにハルヒは目を覚ますだろう。 俺が安心すると大きなサイレンと共に救急車が到着した。 救急隊員がハルヒを担架に乗せると救急車の中に運んでいった。 「僕たちも付き添いましょう!」 古泉の言葉で俺たちもハルヒに付き添い病院に向かう。 救急車の中では救急隊員がハルヒの口に人工呼吸器をあてている。 俺は先ほどの長門の言葉を頭の中で何度も自分に言い聞かせながら平静を保っていた。 病院に着くとハルヒは緊急治療室に運ばれていった。 俺たちはロビーで待つことにする。 「ぅ・・・ぅぇ・・・涼宮さぁん・・」 朝比奈さんはさっきからずっと泣いており古泉がそれをなだめている。 「長門さんがあの場で治療してくれたおかげで涼宮さんはほとんど無傷です。心配いりませんよ。」 そう言ってる古泉だがいつもの笑顔はない。 「とりあえず今は待ちましょう。僕たちにできることはそれしかありません。」 どれくらいの時がたっただろうか。気がつくと辺りはすっかり暗くなってる。 すると治療室から医者がでてきた。 真っ先に古泉が医者に駆け寄る。 「彼女のお友達の方々ですか?」 「えぇ、先生。彼女の容態はいかほどでしょうか?」 古泉はいつになく真剣な顔だ。 「心配いりませんよ。頭を強く打っていますが奇跡的に無傷です!すぐに目を覚ましますよ!」 「そうですか。ありがとうございました。」 古泉は医者に会釈すると俺たちにやっと笑顔を見せた。 「よかったです。長門さんのおかげですね。」 ようやく朝比奈さんも泣き止んだ。 俺は長門に顔を向けると長門は相変わらずの無表情だった。 「長門。ありがとう。」 長門は淡々と答えた。 「涼宮ハルヒは大事な観察対象。万が一のことがあっては困る。」 ありがとな長門。お前はそう言っていても俺にはお前に対する感謝の気持ちでいっぱいだ。 「皆さんこれからどうします?僕は今から涼宮さんのご両親に連絡してきますが。」 どうする?決まってるだろ? ハルヒが目を覚ますまでそばにいるさ!いつだったか俺が入院したときもあいつはずっとそばにいてくれたんだからな。 「俺はしばらく病院に残るよ。」 「わかりました。では僕は電話してきます。」 あとはハルヒが目を覚ますのを待つだけだ。 俺は朝比奈さんと長門を連れてハルヒが運ばれた病室へ入った。 人工呼吸器を口につけたまま眠っているハルヒ。 俺はそんなハルヒに心の中で声をかけた。 おいハルヒ!さっさと起きてくれよ。お前がいないとSOS団はどうなるんだよ。それに映画に一緒に行く約束もしただろ!お前が寝たままじゃチケットが無駄になるだろ! 第一俺を庇ってくれたことの礼も言いたいんだよ。 だからさっさと起きろ! 言いたいことはまだあるんだ。 しばらくすると古泉が戻ってきた。 「涼宮さんのご両親がもうすぐ到着されます。おそらく僕たちは邪魔でしょう。今日のところは帰りましょうか。」 ハルヒが目覚めるまでそばにいたかったがハルヒの両親に迷惑をかけるわけにもいかない。 「仕方ないな。今日は帰ろう。」 俺たちは病院を後にして解散した。 翌日になると俺はいつものように学校に向かった。 坂道を駆け足で登り校舎に入る。 そしてクラスに入る。 だがハルヒの席にハルヒはいない。 やがてHRが始まり担任の岡部が切り出した。 「えぇ、涼宮は昨日交通事故に遭って頭を強く打ったそうだ。怪我はないらしいが今日は大事をとってお休みだ。」 クラスが騒然とした。 だがすぐにいつもの空気に戻る。 その後俺は授業を受けたがやはりハルヒが後ろにいないとなんだか物足りないな。 「ねぇキョン!いいこと思いついたわ!」 そう言ってつついてくるハルヒが途端に恋しくなったな。 結局俺は授業など上の空って感じであっという間に1日が過ぎた。 廊下にでると古泉と朝比奈さんと長門が俺を待っていた。 「先ほど病院から連絡がありました。涼宮さんが目を覚まされたようですよ。」 「本当か古泉?」 「えぇ。僕たちもすぐに病院に向かいましょう。」 やっと目を覚ましてくれたかハルヒ… お前のいない学校はつまらなかったよ。 そんなことを思いながら俺たちは病院に向かった。 ハルヒの病室に着くと俺は昨日のことをどうハルヒに謝ろうかと考えながら扉をノックした。 「どーぞ!」 ハルヒの元気な声を確認して俺は安心した。 ゆっくりと病室の扉を開けるとそこにはベッドの上でしかめっ面をして腕を組むハルヒがいた。 俺たちは病室に入り扉を閉めた。 「ハルヒ。もう大丈夫なのか?」 ハルヒはしかめっ面のままこちらを凝視していた。 「あんた・・・誰?」 俺は耳を疑った。 あんた誰?何言ってんだよこいつは。 ちっとも笑えないぞ! 「は?」 「は?じゃないわよ!勝手に人の病室に入ってこないでよ!」 「せっかく見舞いに来てやったんだ。なんの冗談だよ?」 ハルヒは表情を変えない。 「見舞い?なんであたしの知らない人間が見舞いに来るのよ!」 どうゆうことなんだ?俺を知らない? すると古泉がいつもの笑顔で話かける。 「お元気そうで何よりです。涼宮さん。」 ハルヒは不思議そうな顔で古泉を見る。 「なんであんたもあたしの名前知ってんの?どっかで会ったかしら?ああ、そういえばそれ北高の制服ね。」 全くもってわけがわからん。誰か説明してくれ! 突然古泉が俺の耳元で囁く。 「一旦出ましょう。わけは外で説明します。」 俺たちは古泉の言うとおり一度出ることにした。 ロビーに移動した俺たちに古泉が語り始める。 「先ほどの涼宮さんの奇妙な言動ですが、記憶喪失と考えると全てつじつまが合います。」 「記憶喪失だって?ハルヒはホントに俺たちのこと忘れちまったのか?」 「えぇ、それも僕たちSOS団のことだけをね。」 「俺たちだけ?なんでそんなことがわかる!」 「涼宮さんはご両親とは普通に話してるようですし涼宮さんは北高のことを知っていました。なので消えてる可能性があるとしたら僕たちSOS団に関する記憶でしょう。」 ハルヒの中から俺たちだけの記憶が消えた?なんでそんなややこしいことになっちまったんだ。 「おそらく僕たちとの思い出が涼宮さんにとって一番大事なものだったからでしょう。それが優先的に消されてしまったのです。」 「元には戻らないのか?」 「わかりません。突然思い出すこともあるようですが・・・」 とりあえずもう一度涼宮さんの病室に行きましょう! 俺たちは再びハルヒの病室にやってきた。 古泉がノックをする。 「どーぞ!」 こうなりゃやけだ!意地でも俺たちのことを思い出させてやる! 扉を開けるとしかめっ面のハルヒ。 「またあんたたち?あたしに何の用なのよ!」 俺は手当たり次第ハルヒに質問をぶつけてみることにした。 「なぁ、谷口って知ってるか?」 何故か最初に谷口が浮かんだ。 「谷口?あのバカがどうしたのよ!」 なるほど谷口は覚えてるのか。 「じゃあ国木田って知ってるか?」 「国木田?ああ谷口といつもつるんでるやつね?」 国木田は俺と同じ中学だ。ハルヒは中学の国木田を知らないはずだ。 つまりハルヒには北高の記憶はあるということだ! 俺はハルヒを追い詰める。 「じゃあお前の席の前に座ってるやつは誰だ?」 ハルヒはその場で考えこみ始めた。 「・・・あたしの・・前?・・思い出せないわ。なんで?」 なるほど… やはり俺たちだけの記憶がないらしい。 「・・・なんで思い出せないの?・・・っていうかあんたたちは誰なのよ!」 「お前と同じ学校のもんさ!俺はキョン。こっちが古泉で、こっちが朝比奈さん。こっちが長門だ。」 なぁ思い出せよハルヒ!お前だけが一方的に俺たちを忘れるなんて許さないぜ! 「あまり考えさせるのもよくありません。また出直すことにしましょう。」 ここは古泉言うとおりにしておこう。 「じゃあなハルヒ!明日学校でな!」 「ち、ちょっと待ちなさいよ!まだ話は終わってないわ!」 ハルヒの言葉を無視して俺たちは強引に病室をでた。 全く勝手なやつだ。俺たちだけのことを一方的に忘れやがって。 「まぁいいではありませんか。涼宮さんがご無事だったのですから。焦る必要はありません。」 「だがなぁ」 「涼宮さんは明日から登校してきます。きっと明日思い出してくれますよ。」 今日の古泉の言葉には妙に説得力がある。 「そうだな。今日は帰るか。」 そうして俺たちは解散することにした。 その日の夜、俺は明日ハルヒの記憶を取り戻すための作戦を考えていた。 ハルヒの記憶を戻す方法はある。 それは俺はジョン・スミスだと言うだけでいいんだ。 だがそれを使うと今までのことや俺たちのことを全てハルヒに話さなければならない。 下手するとハルヒの力が暴走する。 だからこの方法だけは避けたい。 そんなことを考えながら翌日になった。 今日はきっとハルヒが来る。 俺は急いで学校に向かった。 駆け足で教室に入るとハルヒの姿があった。 椅子に座り腕を組んでまわりをじっと睨んでいる。 まるで一年前ハルヒと出会ったときのようだ。 「よう!体はもう大丈夫なのか?」 俺は自分の席に座りハルヒに話しかけた。 「あんた昨日の!なんであんたがここにいんのよ?」 「ここは俺の席だ。」 ハルヒは戸惑った顔をしている。 今までいろんなハルヒの顔を見てきたがこんな顔は初めてみたさ。 正直可愛かったね。 「・・・っ・・思い出せないわ。あたしが忘れてるのはあんたなの?」 頭を抱え込んでるハルヒ。 「いずれ思い出すさ。」 俺はそう言って前を向いた。 それからのハルヒはずっと空を見て考えこんでいた。 思い出してくれよハルヒ。俺たちのことを。 それから時間は流れ昼休み。 俺はハルヒを部室に連れていくことにした。 「ハルヒちょっと来てくれ!」 ハルヒの手首を掴み強引に部室まで引っ張っていく。 「ち、ちょっとなによ!」 ハルヒの言葉に俺は耳を貸す余裕はない。 「・・・文芸部?なんでここに連れて来たのよ!」 文芸部。つまりSOS団の部室だ。 「今日からここがあたしたちの部室よ!」 一年前ハルヒがこの部屋でそう言った日からSOS団は始まった。 扉を開けるとそこには朝比奈さん、長門、古泉がいた。 ハルヒを中に入れ俺は問いかけた。 「どうだ?この部屋覚えてないか?」 ハルヒは少し考えこむと 「・・・わからないわ。・・でも・・・なんか懐かしい感じがするの・・」 よかった。連れてきた甲斐があったみたいだ。 毎日通った部室だ、ハルヒの体が覚えているんだろう。 「涼宮さんはこの部屋で団長をやっていたんですよ。」 古泉と朝比奈さんが壁に貼り付けられた写真を指差した。 夏合宿のときに孤島で撮った写真だ。 「これ・・・あたし?なんで?・・・思い出せない。」 まるでおもちゃを無くした子供のような顔で写真を見つめるハルヒ。 「俺たちはここでお前のつくったSOS団として活動してたんだ。その写真が証拠だよ。」 ハルヒはやがて無言になる。 しばらくの沈黙が流れやがてハルヒが切り出す。 「SOS団だとか・・・団長だとか・・・わけわかんない・・」 今にも泣き出しそうな顔でそう言うと走って部室を出ていった。 「・・・ハルヒ」 出ていった瞬間ハルヒが遠くに離れてくような感じがした。 「仕方ありません。いきなり現実として受け入れるのはいくら涼宮さんでも難しいでしょう。」 古泉も珍しく寂しい顔をしている。 すると俺の服を掴むやつがいた。 長門だ! 「長門?」 長門は無表情のままこちらを向く。 「涼宮ハルヒの精神状態が不安定になったことでこの部屋の空間を構成している力のバランスが崩れようとしている。」 よくわからないがそれがまずいことだってことは俺にもわかる。 古泉が神妙な面もちで言う。 「とにかく放課後対策を練るとしましょう。」 結局その日ハルヒは教室に戻って来なかった。 放課後俺は再び部室に向かった。 部室にはすでに3人の姿がある。 古泉が真剣な顔でこちらを見ている。 「涼宮さんは?」 「ハルヒは結局帰って来なかったよ。」 古泉と朝比奈さんは何か深刻な顔をしている。 「困ったことになりました。先ほど機関から連絡があったのですが世界中で大規模な閉鎖空間が発生してるようです。」 「なんだって?」 「おそらく涼宮さんの精神状態が不安定になったことで発生したのでしょう!このままではこちらの世界とあちらの世界が入れ替わってしまいます。そうなる前に涼宮さんを見つけなくてはなりません。」 くそっ!こんなことになるならハルヒをここに連れて来るんじゃなかった! 「悔しんでもなにも変わりません。とりあえず今は一刻も早く涼宮さんを探し出さないといけません。」 「ああ。わかってる」 俺は長門を見た。 「長門。お前の力でハルヒを探せないか?」 長門は答える。 「今はできない。現在私の能力は何らかの影響で弱まっている。」 何らかの影響?それもハルヒの仕業なのか? 「・・・おそらく」 「ここ話していても何も解決しません!今は涼宮さんを見つけだすことが先決です!」 古泉の号令で俺たちは手分けしてハルヒを探すことにした。 くっ!ハルヒ。どこにいるんだ! ハルヒの行きそうなところに俺は走った。 東中か?それともいつもの喫茶店か? とりあえず行ってみるしかない。 俺はいつもの喫茶店に走った。 ハルヒはいないようだ。 じゃあどこだ?東中か?何も考えずに俺は東中に向かう。 走りながらハルヒの携帯に電話をかけるが繋がらない。 俺は東中に着くと無我夢中で探しまわった。 ここにもいないのか?じゃあどこにいるんだハルヒ! 気がつくと辺りはすっかり暗くなっていた。 こんなことになっちまったのは全部俺の責任だ!俺が無理やりハルヒに記憶の断片を突きつけたり、いや、その前にあのとき事故に遭わないければハルヒはこんなことにならなかった。 自分自身に腹がたつ!頼むハルヒお前に会いたい! いつの間にか俺は北高に戻ってきていた。 真っ暗な校庭の真ん中にポツリと誰か立っている! ハルヒなのか? 俺は校庭の真ん中に駆け寄った。 「ハルヒ!」 校庭にいたのはハルヒだった。 ハルヒは悲しそうな顔でこちらを見た。 「あんた・・・一体なんなのよ・・」 いつになく力無い声だ。 「・・・わかってるのよあたしだって。何か大切なことを忘れてるのは・・・」 「・・・ハルヒ」 「・・でも・・どうしても思い出せないの!・・・あんたのことだって絶対知ってるはずなのに。」 ハルヒの悲しい顔を見ると俺は胸が苦しくなる。 ハルヒは俺に近づき続ける。 「ねぇ教えて!あんたは誰なの?あんたは私のなにを知ってるの?・・・教えてよ・・」 俺はハルヒの両肩に手を乗せて言う。 「・・・いいんだハルヒ。無理に思い出さなくて・・・お前はお前だ。他の誰でもない。涼宮ハルヒだ!」 ハルヒは目から涙を流しながら俺を見つめている。 「・・・・・なんであんたを見るとドキドキするの?・・・なんで・・」 俺はハルヒを抱きしめた! 俺の胸の中で泣いてるハルヒ… 「なぁハルヒ聞いてくれ。お前が俺のことを思い出せなくても俺はお前が大好きだ!・・・俺だけじゃない!古泉も長門も朝比奈さんもみんなお前が大好きなんだ!」 俺は一年前にハルヒと閉鎖空間に閉じ込めらたときのことを思い出していた。 今はあの時とは違う。今俺がハルヒにキスをしたところであの時のようにうまく行く確証はない。それどころかそんなことをすれば逆にハルヒの精神状態をよけい不安定にしてしまうかもしれない。 だが気がつくと俺はハルヒの唇に自分の唇を重ねていた。 なぜそんなことをしたかって? 決まっている!俺がしたかっただけだ! 俺はハルヒと世界を天秤にかけてハルヒを選んだ。 もうこのあと世界がどうなろうとかまわなかった。 今はただハルヒと唇を重ねていたかった。 1分ほど経っただろうか。俺はハルヒから唇を離しハルヒの顔を見た。 ハルヒの頬は赤くなっている。 こんなときに不適切な発言かもしれないが言っておく。 世界で一番可愛いと思った。 ハルヒの肩から手を離すとハルヒが小声で言った。 「・・・・・・・・・・・・・ばか」 「すまんハルヒ。つい・・・」 ハルヒは赤い顔のまま顔を横に向けた。 「・・・ばかキョン。・・罰として土曜日奢りなさいよ。」 ん?今なんて言った?土曜日?まさかハルヒ! 「思い出したのか全部!?」 ハルヒは再びこちらに向いて 「大体あんたがあのときよそ見したから悪いのよ!今度からはちゃんと周りをみてから渡りなさい!」 よかった。いつものハルヒだ。 そのあとのハルヒとの会話はよく覚えていない。 そしてその日の夜に古泉から電話があった。 古泉の話によると世界中に発生していた閉鎖空間は消えたらしい。つまり一件落着ってわけだ。 翌日からハルヒはいつものハルヒに戻っていた。 部室ではハルヒが朝比奈さんをいじくり、長門は相変わらず分厚いハードカバーを広げ、俺と古泉はチェスで対戦。 そこにはいつもと変わらない日常があった。 ◆エピローグ◆ 土曜日の話だ。 俺はハルヒと映画を見に行った。 鑑賞した映画は男と女が繰り広げる非日常のラブストーリーだった。 俺の隣のハルヒは終始真剣にスクリーンを見つめていて、映画のワンシーンであるキスシーンが流れると頬を赤く染めていた。 正直俺は映画よりハルヒの顔見てるほうが面白かった。 映画を見終わり俺たちは駅に向かって歩いていた。 「なぁハルヒ。あんなチャラけた映画の何が面白いんだ?」 「あんたにはわかんなくていーの!ばかなんだから!」 俺はハルヒをからかってやった。 「お前キスシーンのとき顔赤くなってたぞ。」 ハルヒはその場で赤くなり俺の胸ぐらを掴む。 「な、なんであたしの顔見てたのよ!?いやらしい!」 「別に。お前も純情なんだなハルヒちゃん!」 「う、うるさいばかキョン!」 ハルヒは尚も俺の胸ぐらを掴みながら小声で言う。 「・・だいたい、あんたからだけなんてずるいじゃない・・」 そのまま俺を引き寄せ唇を重ねてきた。 短いキスが終わりハルヒは赤く染まった頬のまま言った。 「これでおあいこだからねキョン!」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/6540.html
11 36 キョン「はぁ、なんでこんなに遅く帰らなきゃいけねんだよ。」 俺はハルヒに付き合わさせられて遅く帰っていたときだった。 もぞもぞと動いていた物があった。 それを見てみると視界が暗くなった。俺が覚えている事はこれくらいしか無い。 7月6日 午後4 00 SOS団部室 ガチャ ハルヒ「みんないる~て、有希と古泉くんだけ~、みくるちゃんは。」 古泉「朝日奈さんなら少し遅れてくると、そういえばキョンさんは。」 ハルヒ「キョンだったら今日は休みよ。」 ハルヒ「なんか暇だから今日は帰るわ、古泉くんと有希も早く帰りなさいよ。」 古泉「そうですかではお言葉に甘えて帰らしてもらいます、では。」 続く
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/638.html
涼宮ハルヒの誤解 第一章 涼宮ハルヒの誤解 第二章 涼宮ハルヒの誤解 終章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/528.html
魔の坂道を根性で登りきり、やっと教室に到着した。 あの朝のハイキングコースはいい加減やめて欲しい。 俺は鞄を自分の机に下ろすと、ちらりと後ろの席を見た。 ハルヒはまだ来ていないようだ。 しばらく待っていたが、ハルヒは一向に姿を見せない。 どうしたんだろうか?まさか欠席か? 「よーし、じゃあホームルーム始めるぞー。」 岡部が教室のドアを開けて入ってきた。 ハルヒは結局今日は欠席か、とか思っていると、 なんと、ハルヒが岡部の後ろから付き添うように教室に入ってきたではないか。 なんだ、ハルヒ。また何かやらかしたのか? ハルヒは若干俯き気味だ。 ごほん、と岡部がわざとらしい咳払いをする。 「えー、今日は皆に聞いてもらいたいことがある。」 岡部はハルヒに顔を向け、小声で「自分で言うか?」と聞いた。 ハルヒはフルフルと首を横に振る。 岡部はハルヒを少し見つめたあと、また前に顔を向けて、 少し間をあけてから言った。 「実は涼宮が転校することになった。」 ・・・・・・・・・は? 教室から驚愕の声が上がる。 俺は声が出ず、口をぽかんと開いたままにしていた。 「お父さんの仕事の関係らしくてな。海外に行く事になったらしい。」 ・・・・・・・・・。 嘘だろ? 俺は席に戻ったハルヒに質問攻めをした。 どうやら岡部が言ってる事は全て本当のことらしい。 海外に行く日は・・・・・・。 今週の土曜日。 なんてこった。もう1週間も無い。 冗談だろ? 最近のハルヒがおかしかった理由を一気に理解した。 鬱だったのは、俺達と別れるのが嫌だったから。 いつも以上に活発だったのは、俺達との最後の時を楽しむため。 突然のオゴリは、最後のハルヒなりの気遣い。 ・・・・・・。 嘘だろう、嘘であって欲しい。という想いが俺の頭の中をめぐる。 今、ここで岡部がプレートを掲げながら「ドッキリでした」と言ってきても、許せてやれる。 嘘と言ってくれ、ハルヒ。 「私だって信じたくないわよ。でも本当のことなの。仕方ないわ・・・。」 毎日のように部室に行き、 毎日のように長門は本を読んでいて、 毎日のように朝比奈さんが茶を入れてくれて、 毎日のように古泉とボードゲームをし、 毎日のようにハルヒが突然持ってきた馬鹿な計画につきあわされ、 毎日のようにSOS団の皆で笑って過ごす。 こんな毎日がずっと続くと思っていた。 わかっていた。 高校卒業と共に、そんな楽しい日々が無くなるのも。 でも、卒業する日が来るまでは、せめて卒業までは、 ずっとそんな日々が続くと確信していた。 しかし、その運命の時は、俺が予想していたよりもはるかに早く訪れたようだ。 ハルヒがいなくなる。 俺の中で何かがガラガラと崩れていく気がした。 団長がいてこそのSOS団だろ? お前がいなくて どうするんだよ。 俺はとぼとぼとした足取りで部室に向かった。 ハルヒを除いた三人は既に揃っていた。 「みんな・・・えらいことになった。」 「・・・・・・聞きました。涼宮さんのことでしょう?」 古泉はいつものようなニヤケ顔ではない。 もっとも、古泉がこの状況でまだニヤケ顔だったら 俺は古泉をぶっ飛ばしていたかもしれない。 朝比奈さんは、メイド服も着ずに、パイプ椅子に座って涙目だ。 長門はいつもの無表情だが、手元にはいつもの本がなく、床の一点をただじっと見つめていた。 「・・・・・・・・・。」 沈黙が流れる。その時だった。 「ヤッホー!!皆元気ー!?」 驚いたね、流石に。見ると、ハルヒの表情は、いつものような笑い顔だ。 「よくお前、笑っていられるな。」 俺がそう言うと、ハルヒは部室の雰囲気に気付いたらしく、 笑い顔を真顔に戻して、教室の時のような表情をつくる。 「皆、もう知ってるんだ・・・。」 ハルヒはすたすたと歩いていき、いつもの席に着いた。 それから30分ほど、俺達は何も話さずにそうしていた。 これほどまでに重い空気が流れたのは、この部室初めてのことであろう。 「ねぇ。」 突然ハルヒが口を開いた。 「このまま、こういう雰囲気で過ごしてもしょうがないじゃない? もうあと僅かしかない時間なんだから、もう少し楽しみましょうよ。」 ・・・・・・わかっている、わかっているが・・・そううまくは切り替えられんな。 「そう言ってても始まらないでしょ!!」 ハルヒは大声を出すと、いきなり机を叩いて立ち上がった。 そして、机に顔を伏せていた朝比奈さんのところまでいくと、朝比奈さんも立ち上がらせる。 「さぁ、みくるちゃん!着替えるわよ!!」 そう言うと、朝比奈さんの制服を脱がせ始めた。やばいっ!! 俺と古泉は急いで部屋から出て、ドアを閉めた。 中からは朝比奈さんの悲鳴とハルヒの変態チックな声が聞こえてくる。 しばらくして、 「ど・・・どうぞ。」 という朝比奈さんの声がしたので開けてみると、 メイド姿の朝比奈さんの横に、バニー姿のハルヒがいた。 「バニーよっ!」 何故お前も着替える。 「なんででもいいでしょー?キョンもコスプレしない?楽しいわよ。」 遠慮しておく。 「遠慮しないの!小泉君!クリスマスのときのキョンのトナカイ衣装出して!」 マジで?あれ?あのトナカイには俺の忘れたいトラウマがあるのだが。 そもそも、今日はクリスマスじゃない。 「はい、ただいま。」 古泉は、俺のトナカイ衣装がかけてあるハンガーを手にとる。 っていうか、古泉も何ハルヒの言う事素直に聞いているんだ。 「さぁ、キョン。さっさと着替えるのよ。」 断る。断じて着ない。 「つべこべ言わずに着替えなさい!!」 そう言うと、ハルヒは俺に飛び掛ってきた。やめろ!!この痴女め!! 「やめろって!わかった!自分で着替える!!自分で着替えるから!!」 俺がそう叫ぶと、やっとハルヒは俺のシャツのボタンにかけていた手を止めた。 朝比奈さんは、両手を顔に当てながら耳を真っ赤にして蹲っている。 「最初からそう言えばいいのよ。じゃ、さっさと着替えなさい。」 その前にだな、ハルヒ。 「何よ?」 俺はドアの方を指さす。するとハルヒは納得したように、 「ああ、そうね。じゃあみくるちゃん、有希、いくわよ。」 ハルヒは蹲ってる朝比奈さんと、パイプ椅子にじっと座っていた長門を連れて、 部屋の外に出て行った。やれやれ。 抵抗がある。それはそうだろう、いきなりこんなトナカイ衣装を着ろ、と言われて 素直に着る奴がいるだろうか。いるとしたら、そいつは変態が含まれている。 「さて、涼宮さんたちを長く待たせるわけにもいかないですから、 早く着替えてしまいましょう。」 うるさいな、古泉。人の気も知らないで。と、振り返ると、 そこにいたのは古泉ではなく、やけにでかいカエルだった。 ・・・・・・誰? 「僕ですよ。面白そうなので、僕も着替えてみました。」 古泉の声を発する化けガエル。よくみると、それは俺達がバイトで得たカエルの衣装だった。 お前も着替える必要ないだろ。お前は変態か? 「キョン、まだー?」 ハルヒがドンドンとドアを叩く。 ・・・何の罰ゲームだ、これは。 俺の姿を見るなり、ハルヒは大爆笑した。 まぁ、こういうリアクション取るとはわかってたがね。 朝比奈さんは、手で口をおさえながら俺の姿を凝視している。 長門はというと、眉ひとつ動かさずに無表情のままだ。 気付くと、化けガエルの視線がこちらに向いていた。 なんだカエル。やるのか?トナカイなめるなよ、この両生類が。 「いやー、やはりあなたのコスプレが一番様になってますね。」 どういう意味だ。とりあえず言っておこう、全然嬉しくない。 ここで俺はあることに気付いた。 「そういや長門だけコスプレしてないな。」 一同が一斉に長門を見る。 「・・・・・・・・・。」 長門の眉が1ミクロン動く。 しばらくそのまま固まったあと、長門はすたすたとハンガーの前に歩いていき、 ひとつのハンガーを手に取って言った。 「これ。」 ナース服だ。 古泉と外で待つこと、数分。 「うわっ、有希、あんたなかなか似合うわね。 キョン、古泉くん、いいわよー!」 ドアを開けると、そこにナース服の長門がいた。 「・・・・・・・・・。」 無愛想なナースさんは、無言のまま突っ立っている。 ・・・俺は今、ひょっとしてすごいものを見ているのではないだろうか。 長門がコスプレするなど、まず普通なら考えられない。 これをデジカメで撮って学校にいる長門ファンに売れば、 かなりの高額で売れること間違いなしだ。 「・・・・・・。」 長門は無言で棚から本をとると、ナース姿のまま、所定の場所について読書を始めた。 無表情、無言で読書をするナース。なんなんだろうね、これは。 「じゃあ、これで全員コスプレ完了ね!」 全員でコスプレしてどうするというのだ。 「楽しいからいいじゃない。」 俺は早く脱ぎたいのだが。 「そんなノリの悪い事言わないの。」 ノリってお前・・・。 「まぁまぁ、たまにはいいじゃないですか。」 うるさい、化けガエル。田んぼでゲコゲコ鳴いてろ。 「キョンくん、似合ってますよ。」 そんな、朝比奈さんまで! 俺のハートは1000ダメージを受けた。 しかし、すっかり元のSOS団の雰囲気に戻ったな。 これも団長、ハルヒがいてこその――・・・ ・・・・・・ああ、そうだった。ハルヒは、もう来週の日曜日にいなくなるんだ。 この楽しい日々も、ハルヒがいてこそ、成立しているんだ。 ハルヒがいなくなったらSOS団は―――・・・ 帰り道、前ではしゃいでいるハルヒに聞こえないように俺は古泉に話しかけた。 「なぁ、古泉。」 「何でしょうか。」 「ハルヒの転校が無しになるってことはないのか?」 「・・・・・・正直申し上げますと、難しいとだと思います。 涼宮さんが激しく願えば可能かとも考えられますが、 今の彼女の精神では、『仕方が無い』とされています。 加えて、今の彼女は段々力が薄れてきている状態にあります。 その条件で彼女が転校しないことになるのは・・・・・・。」 「・・・・・・そうか。」 俺は帰り道、はしゃぎまわるハルヒの顔をじっと見つめていた。 それからは、俺はホームルームが終わると即効で部室に行くようにした。 限りある時間を大切にするためである。 こうなることがわかっていれば、もっと前々から時間を大切にしていたのだが。 人との別れは、突然訪れるものだ。 金曜日。今日が、ハルヒがSOS団での最後の活動。 「ヤッホー、って、何それ。」 ドアを蹴り破って入ってきたハルヒは、 部室の中央に置かれたものを見て口をぽかんと開けた。 見てのとおり、鍋だ。 「何で鍋?」 「お別れ会ですよ。」 古泉は、ニコニコしながら言った。 「お別れ会?ってことは、一種のパーティーね!」 ハルヒは目を輝かせる。 パーティーではないとは思うけどな。 「じゃあ始めましょう!!」 その日、最後の活動は、今までのSOS団の活動の話で盛り上がった。 ハルヒがSOS団を結成したときの話、野球の話、七夕の話、 映画を作ったときの話、俺が入院した時の話、ハルヒの文化祭でのライブの話・・・。 まだまだ話足りなかったが、時は残酷なもので、 それを全て話しきるまでの時間は与えてくれなかった。 ふと気付くと、外ではぽつぽつと静かに雨が降り出していた。 今、俺は空港にいる。朝比奈さんも、古泉も、長門も一緒だ。 もちろんハルヒも。 そして別れの時まで、あと30分。 「いよいよね・・・。」 ハルヒは右手にはキャリーバッグがある。 見ると、朝比奈さんは、もう涙目になっていた。 「ちょ、ちょっとみくるちゃん。いくらなんでもフライングしすぎよ。」 「だ・・・だって・・・。」 しょうがないないわね、みくるちゃんは、とハルヒは朝比奈さんの頭をぐしぐしと掻いた。 ハルヒの両親をみたのも、そういえば今日が初めてだ。 父親は、なんだか優しそうな人で、 母親は、リボンを頭につけた、元気のある人だった。 どちらかというとハルヒは母親似だろう。 「今まであの子の事、ありがとうございました。 大変でしたでしょう?」 ハルヒのお母様が俺に向かって言った。 「いえいえ、そんなこと。」 実際は大変だったけどな。 「さて。ちょっとあんたらここ一列に並びなさい。」 何だ? 「いいから、早く。」 ハルヒに言われるまま、俺等団員は横一列に並んだ。 ハルヒはまず、古泉の両手を掴んで、 「古泉くん。あなたは副団長としてよく働いてくれたわ。 あなた無くして、このSOS団の活動はできなかったと言っても過言ではないわ。 今までありがとう。」 「ありがとうございます。」 古泉はニッコリと笑う。 どうやらハルヒのやってるこれはお別れの挨拶らしい。 次にハルヒは、長門の両手を掴んで、 「有希。あなたはSOS団唯一の無口キャラ、兼万能少女として頑張ってくれたわ。 今までありがとうね。」 「そう。」 長門はおもむろに一冊のハードカバーの本を取り出し、 「読んで。」 それをハルヒに渡した。 「これ、私に?」 ハルヒは戸惑ったような表情でそれを受け取った。 「そう。」 「・・・ありがとう、有希。大事にするわ。」 ハルヒはそれをバッグに入れると、今度は朝比奈さんの手をとった。 朝比奈さんの顔は涙で濡れている。 「みくるちゃん、あなたは部の萌系マスコットキャラとしてよく頑張ったわ。 それと、あなたの入れてくれたお茶は、他の誰が入れるお茶より美味しかったわよ。 もう、あれが飲めないとなると、ちょっと寂しいけど・・・、ありがとうね。」 ハルヒがそういい終わる頃には、朝比奈さんの顔は涙でぐしょぐしょになっていた。 「もう、ちょっとみくるちゃん?・・・しょうがないわね。」 朝比奈さんにつられたのか、ハルヒの目にも少し涙が浮かんできた。 最後にハルヒは俺の前に立って、 「キョン。あんたは・・・まぁ特に働いて無いけど、」 おいおい、ちょっと待て。 「あんたがいてくれて良かったわ。 あんたがいてSOS団だもん。 …今までありがとうね。」 ……ああ。 「それとキョン。」 ハルヒはごそごそとポケットを探り始めた。 なんだ? ハルヒはそれを掴むと、俺の胸に押し付けた。 赤い布?手に取ってみると・・・ 腕章だ。ハルヒがいつもつけていた、 団長 の腕章。 「あんたを、SOS団の団長に任命するわ!喜びなさい!」 …俺が? ………俺が団長? 横を見ると、他の団員も俺を見ていた。 俺がこいつらを引っ張っていくのか・・・? 俺はハルヒがいなくなると同時に、SOS団も無くなると思っていた。 しかし・・・。 SOS団は、まだ続いていくのか。 そうだ、こいつ等はまだここにいる。 今度は、俺がこいつ等を引っ張っていくのか。 ハルヒじゃなくて、今度は俺が。 俺は、腕章をぎゅっと握った。 「あんたたち!」 ハルヒは涙を流しながら笑っていた。 「次回のSOS団不思議探索パトロールをする日を発表します!」 ハルヒは斜め上を人さし指で指す。 「私は五年後に、日本に帰ってくるわ! 五年後の今日と同じ日、いつものあの場所だからね。」 ハルヒの笑っていた顔が、徐々に歪んでいく。 「駅前・・・集合よ。キョンあんた・・・ぐす・・・いつも遅れるんだから・・・ぐす。 早く・・・ぐす・・・。来なさいよね・・・ぐしゅ・・・。 遅れたら・・・ぐす・・・罰金なんだから。」 気付いたら、頬が熱くなっていた。 何事か、と頬を手で触ってみると、熱い液体がついていた。 その液体は俺の眼からつたっているようだった。 ハルヒの父親が、優しい顔でハルヒの肩を叩く。 「じゃあ・・・・・・。」 ハルヒはそう言って踵を返した。 ――コノママイカセテイイノカ?―― ・・・次の瞬間に俺がとった行動は、今思えばとんでもないことだったと思う。 朝比奈さんも、古泉も、長門も、ハルヒの両親も見ていただろう。他の乗客もな。 とんでもない行動だった。しかし、後悔はしていない。 俺は、ハルヒの肩を掴むと、身体を引き寄せ、唇を重ねた。 そのまましばらくして、唇を離し目を開けると、ハルヒは驚いたように目を見開いていた。 いや、ハルヒだけじゃないな。朝比奈さんも、古泉も、長門も、ハルヒの両親もだ。 ハルヒは、そのまま顔を赤くして、口を開いたままになったが、 しばらくすると、顔に笑みを浮かべ 「ぷっ」 と吹き出した。 「何だ。」 「何でもないわよ。ふふ。」 ハルヒは小さく手を振りながら、 「じゃあねっ!」 と言い、飛行機の中に消えた。 いつものような笑顔で。 その後、俺はハルヒを乗せた飛行機が、青い空に消えるまで見送っていた。 「団長・・・か。」 ぽつりと呟いてみる。 「長門。」 俺はハルヒが去っていった青い空を、そのまま見上げながら言った。 「お前は北高に残るのか?ハルヒの元にいくのか?」 「情報統合思念体の判断で、 私が都合よく再び涼宮ハルヒの元に現れるのは、不自然で、不適切な刺激を彼女に与えるとされたから、 涼宮ハルヒの観測は海外にいるインターフェースが行うことになった。 だが、私を消去すると、五年後の涼宮ハルヒに不適切な刺激を与えることになると考えられたため、 私は消去されずに北高に残ることになった。」 「そうか・・・。・・・古泉は?」 「僕は元々ここいらの区間の閉鎖空間の処理の担当です。 異動になる、というのはよっぽどの事がないかぎりありません。」 「そうか・・・。・・・朝比奈さんはどうですか?」 「えっと・・・ぐす・・・今問い合わせてみたんですけど・・・ぐす・・・。 詳しくは禁則事項で言えないんですが・・・ぐす・・・ 私はしばらくこの時間に残らないといけないらしいです・・・ぐす・・・。」 「そうですか・・・。」 俺は青く広がる空を眺めて、もう一度呟いた。 「団長・・・か。」 腕に腕章を着けた俺は、今、全力で自転車をこいでいる。 まったく、こんな日に寝坊してしまうとは・・・。 待ち合わせ場所に到着すると、懐かしい面々がそろっていた。 「遅いですよ。」 「・・・・・・。」 「キョンくん!お久しぶりです!」 相変わらずニヤケ面の古泉、無口無表情の長門、若干背が高くなったであろう朝比奈さん。 そして、奥で笑みを浮かべながら腕組みをしている黄色リボンの女は、間違いなくあいつだ。 「キョン!遅いわ!罰金よ!!」 fin